社長に「自分の気持ちは口にしたほうがいい」と忠告していたのは、最終日の新庄さんだっただろうか。
懐かしく思い浮かべながら、社長に目を戻した。
なるほど、わが社のトップは、たしかに素直じゃない。
「言い方はきついけど、いつも相手のことを考えてるじゃないですか」
今日だって、社長は強引に気持ちを押し付けてくる小柳さんを傷つけるような振り方はしなかった。
彼女の嫌う『ダサい女』に夢中だと伝えることで、社長の好み自体がおかしいと思わせたのだ。おまけに罵倒されて落ちこみかけていた私の心まで救ってくれた。
「もし『スティリスの社長は女の趣味が悪い』なんて噂が立ったら、私が全力で火消ししますね」
笑って言うと、まっすぐ注がれる視線に気づいた。
「……俺は、優しくなんかない」

