オフィスでは絶対に見られない素の表情に、胸が高鳴って仕方ない。
アルコールが入ったせいだろうか。それとも、社長の私生活が垣間見えるこの部屋にいるせい?
いつも持っている緊張感が完全に消え去って、私は自分の気持ちが大きくなっているのを感じた。
「いえいえ、かわいいもんですよこれくらい。うちは人が多い分、もっと乱雑ですもん。収納がないと片付かないんですよね~」
ふわふわと心地いい気分になりながら、自宅の2DKを思い返す。あの部屋に三人で住もうというのが土台無理な話なのだ。
「早く家を出ないとなぁ」
「ひとり暮らしか?」
言いながら社長が冷蔵庫から生ハムのパックとオリーブの瓶詰めを取り出してテーブルに置いた。食器やグラスの類は用意がないのか、サイドボードにあった爪楊枝の容器を手に取り、思い出したように冷蔵庫を開けて追加のビールも取り出す。

