真正面に迫った美しい顔に、心臓が激しく鳴った。
「社ちょ……」
ふたりの距離がさらに縮まり、切れ長の目がわずかに伏せられる。
近づいた肌は私に触れるまで静止しなかった。柔らかな感触が唇の端に当たって、背中をなにかが駆け抜ける。
それは、わずかにずれたキスだった。
唇でもなく、頬でもなく、私の左の口角と、社長の唇が垂直に重なった、キスと呼んでいいのかわからないくらいの、曖昧なキス。
長身を折るようにして私に唇を寄せた社長の向こうで、声にならない声が上がった。小柳さんの位置からは、私たちが正真正銘のキスをしたように見えたに違いない。
息もできず固まっている私の腰を抱くと、社長は私から顔を離し、彼女に向き直った。

