「ああ、結構時間経ってるな。なかなか手ごわい相手らしい」
結城さんが腕時計に目を落としてから私を見る。
「助けを呼んでるんだよ。行ってあげた方がいい」
「は……はい!」
バッグを肩にかけて、私はソファを立った。人混みを突っ切るのはやめて、人が少ない壁伝いに社長の方へと走る。途中、思い立って足を止め、携帯用の鏡をバッグから取り出して手早く口紅を引いた。
私は変わりたいなんて全然思っていなかった。
でも、もし社長がそれを望むなら。
そうすることで、私に興味を抱いてくれるなら……。
「社長!」
人混みから飛び出た頭を目印にたどり着くと、そこは浮かれた音楽とは正反対の重苦しい空気が漂っていた。引き攣りかけた笑顔を浮かべている社長の前で、肩むき出しの服を着た小柳さんが項垂れている。

