これは……口紅くらいしろ、てことかな?

 朝時間がないこともあり、私のメイクはいつも最低限だ。そういえば今日はリップメイクどころかチークすら忘れた気がする。

 一日中、優れない顔色で仕事してたのかも……。

「すすす、すみません!」

 慌てて携帯用の鏡を取り出し、口紅のキャップを外した。

 アパレル事業を手掛けるモデルのような社長のアシスタントとして、美人秘書とはいかずとも、社長が連れていて恥ずかしくない人間にならなくてはならないのに。

 地味なりに清潔感は心掛けていたけれど、顔色が悪いのはアウトだ。

 慌てているからか、紅色をうまく重ねられずにいると、大きな手が「貸してみろ」と口紅を奪った。

 ぐいっと顎を持ち上げられ、整った顔が間近に迫る。