クライアントとの打ち合わせでも、アパレル業界の人はスーツではなくセンスが表れやすい私服を着ていることが多いというのも、この会社に入ってから知ったことだ。

 といっても、うちの社長の場合はたんに窮屈なスーツが嫌いという理由で着ていないだけみたいだけど。

「……別に」

 そう言うと、彼は提げていたカバンから小さな紙袋を取り出し、私に差し出した。

「やる」

 不思議に思いながら受け取って中身を改めると、私でも知っている有名ブランドのロゴが入った口紅が出てきた。金色に輝く本体に薔薇のような赤い縁取りがされていて、それ自体がとてもかわいい。

 持っているだけで一段階上の女になった気分になれるアイテムに、私は隣を見上げる。

「ありがとう、ございます……?」