縋り付くことは出来なかった。
だけど私は、触れるか触れないかのすぐ近くにカイムの温もりを感じて彼を見る。
泣き顔。
きっと今自分は酷い顔をしているんだろうと思った。
でもどうしてもカイムの顔が見たくて、この瞳に映したくて。
涙で揺れる瞳にその姿ははっきりと映らなかったけれど、そのカイムの紅の瞳は深く焼き付ける。
「............よく考えてみるといい。
シエラが進みたい道を。やらなきゃいけないことを。
俺はその答えが出るまで、ちゃんと待ってるから」
縋り付かない私をカイムは抱き寄せはせず、ただ優しく頭をポンポンっと叩く。
まるでそれは小さな子供をあやすようだったが、それが今の私には心地良くて。
また私は彼に幸せを感じた。
「.........今日はもうゆっくり休むんだよ。いいね?
―――じゃあ、俺は行くから」
たった数秒の幸せ。
そんな短い時間でも、充分にその幸せを感じられた。
そう言い離れていく温もりを、私はこくりと頷き見送る。
目でその姿を追えなかったけれど、最後の最後に反射的に彼の姿を捉えようとした私の瞳に紅の残像。
カイムが出て行った開いたままの扉を、私は暫く何も言わずに見つめていた。
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