「例え失っていた記憶が戻ったとしても、シエラがシエラで無くなるわけじゃない。
仲間として一緒にやってきたこととか、その時間が無くなるわけじゃない。
もしも戻った記憶がシエラじゃなくても、俺は何も変わったりしないから」
フワッと、温かい感覚に包まれるのが分かった。
どうしてカイムはいつも、こんなにも優しいのか。温かいのか。強いのか。
私はいつもそんなカイムに縋って頼るばかりで、助けられるばかりで。
今回もほらまた、私の弱い心は縋ってしまいそうになる。
「........でも、でも私はもう今までの私では.....居られない。
何も知らなかった時とは、同じでは居られない。違うの」
でも、縋ってばかりでは居られない。
私が縋れば縋るほど、カイムの負担になってしまう。
私の背負うものを、カイムにまで背負わせては駄目だから。
此処で、縋ってはいけない。
私は目の前のカイムの胸に泣き付きたくなる衝動を抑えて、グッと拳を握り込んだ。
「記憶が戻っても、私は母さんや大切な人達の命を奪ったロアルや魔族に対する憎しみは変わらない。
今でも、魔族が憎い。仇を討ちたいと思ってる。
.........でも今の私には魔族を敵だと言って、傷付けるようなことは出来ないの!
私は魔族の、あの国の姫だからっ!大切な人も沢山居るのっ!
私が.....私の力が、罪のない人達まで哀しい戦いに巻き込んでしまったから―――!」
そう。
私の罪は重すぎる。
私が魔族の姫として産まれたがために。
大きな力を持って産まれたがために、魔族と人間の中にあった平和と均衡が崩れたのだから。
.

