逃げたい。
逃げ出してしまいたい。
でも、逃げ場はない。
「何も言わなくていいから」
もう一度カイムの声が響いて鼓膜を揺らす。
絶望と申し訳なさ、そして突き放される恐怖で滲む涙を必死に零さないようにして、私はカイムの足元を見つめ続けた。
コツンッ。
目の前にあった足が、更に一歩私の方に近付いた。
カイムはすぐそこ。
温かささえも感じられるくらいの距離に居た。
「.........何も言わなくていい。
何も言わなくても、俺はずっとシエラの味方で居るから。
例え貴方が誰であっても」
「え........」
何を言ったのか。
今、この人は私に。
頭の中で描いていた言葉。
私を突き放す絶望の言葉。
そんなものとは明らかに違う言葉に、私の頭は状況に追い付かない。
一体、何を―――。
私は頭の中の想像と現実のギャップに、何が何だか分からなくなって見つめていた足元から上へと視線をずらした。
「カイム.......」
視線を上げると、そこにはいつもと同じ包み込んでくれるような笑顔。
その笑顔に私は、絞り出すように目の前に居る彼の名を呼んだ。
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