前ならカイムと居る時間が何よりも心休まる時だったのに。
今はこんなに、胸が苦しい。
鼓動が乱れる。
コツンッ。コツンッ。
穏やかな足音がきて私の前で静かに止まる。
私は顔を上げることが出来ずに、その止まった足元を空間の重みに堪えるように見た。
「シエラ......って呼んでも、まだいいよね?」
カイムの優しい声が、目を合わせない私の耳に届く。
「うん―――」
優しい声に、そう二文字答えるのが精一杯だった。
カイムの優しい声。
それがいつ私の裏切りに豹変するか、いつ突き放されるか。
それが怖くて、私は怯える。
カイムには、まだ全てを話せていない。
話さなきゃいけないことが多すぎて、まだ大ざっぱにしか話せていない。
自分の記憶が戻ったこと。
自分の存在。自分が魔族でありその姫であったこと。
それくらいしかまだ話してはいない。
自分がこれからどうしたいのか。自分は魔族と人間どちらの側につくことになるとか。
カイムに対する想いとか、ライルに対する想いとか。
そういうことも、もう全部話さなければいけないのに。
そう分かっているのに、上手くこの口が開いてくれない。
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