頭の中で思い出される記憶。
シエラの記憶。
ルシアスの記憶。
ルシアスの幸せ。
シエラの幸せ。
ルシアスの哀しみ。
シエラの哀しみ。
そしてそれぞれのシエラとルシアス、二人分の記憶の中にある共通する一筋の青。蒼。
「───大丈夫。
お前は俺が必ず守るから」
「俺はお前を、許すことなど出来ない」
それぞれの記憶の中で相反する、同じ声。
一方の記憶では私は彼の大切な人で、もう一方の記憶では私は彼の最大の敵。大切な人の仇。
彼は、あの人は―――。
ライルは私を受け入れてくれるのだろうか。
記憶を取り戻すまでは、ただ憎いとしか思っていなかった相手の顔が今は愛しさと懐かしさを帯びて浮かぶ。
人の感情なんて、本当におかしいものだと実感した。
誰かを愛しいと思う気持ちと誰かを憎いと思う気持ち。
正反対であるはずなのに、こんなに簡単に変わってしまうなんて。
でもその気持ちは一度変わってしまえばもう前と同じようにという訳にはいかなくて、その心には何か越えられない引っ掛かりが出来て素直に気持ちに従うことが出来なくなる。
だからこんなにも、今私を悩ませるのだ。
もしも私にシエラの記憶の中で抱いたライルへの憎しみという感情が無かったなら、すぐにでもライルの元へと行っていたのかもしれない。
もしも私にルシアスの記憶の中で抱いたライルへの愛おしいという感情が無かったなら、私は何も悩むことなくカイムの傍に居られたのかもしれない。
だけれど、それはどちらももしもの話で現実でない。
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