ルシアスなんかじゃない、シエラだ。
シエラは人間だ。
そう言ってくれるカイムを前に、心が引き裂かれるくらいに痛かった。
でもルシアスとしての自分を取り戻してしまった私には、それを肯定することが出来なくて。
私が存在することを心から喜んでくれるジスの言葉を否定することが出来なくて。
覚悟を決めきらないままに、事実を認めざる得なかった。
「私は、シエラじゃない」
その告白が、ただそれだけの言葉がどんなに辛かったか。
ずっと私のことを共に魔族を討つという目的を持つ仲間として思ってくれたカイムを前に、それを言うことが。
カイムに対する最大の裏切りではないか。
私の心はシエラのままでも、私はルシアス。
魔族の、憎むべき敵の姫という立場に変わってしまったのだから。
このままルシアスでありながら、このままカイムと共に魔族を討つというのは罪だ。
シエラでありながら、大切な人の敵に回ってしまうのも罪だ。
それよりも前にこの事実が明かされた以上、どちらも私を受け入れてくれるという保障もない。
弾かれて切り捨てられ、やはり最後は独りになるかもしれない。
カイムは最大の裏切りを犯した私を、許してくれるのか。
そして.......かつて私がまだルシアスとして生きていた時に慕ってくれた人々は、この五年間もうこの世には居ないと思っていた私が忽然と現れて受け入れてくれるのだろうか。
考えれば考えるほどに、不安で怖い。
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