mirage of story

〜3〜











出来れば会いたくなかった。



別に彼が嫌いなわけではない。
取り戻した記憶の中にも、はっきりと刻まれている程に私の関わりが深かった人だもの。

嫌いなわけはない。
会いたくなかったと言えば、嘘になってしまう。









だけど。
だけど今の私に、私の幸せにピリオドをこんな形で打たれてしまうのなら、会わない方がずっと良かった。




今までの私は幼い頃の記憶は無くとも幸せだった。

母さんや大切な人を失ったこと、辛いことも沢山あったけど。
それでもこうしてシエラとして生きてきて、カイム達と目的のために仲間として過ごす日々には幸せを感じていた。













なのに。

記憶が戻ってきた。
知りたいはずだった本当の自分を知って、その存在に絶望した。



いつも欲していた記憶。

だけどそれは今となっては、今の幸せを粉々に打ち砕く最凶の凶器。
それを知られてしまえば、今自分に在る全てが失われる気がした。


だから慎重に、心の準備を決めて―――独りきりになる覚悟を決めて全てを打ち明かそうと思っていたのに。
















「ルシアス様」




どうしてその名を呼ぶのか。

記憶と共に封印されていたもう一つの名を。
まだ受け入れきれない過酷すぎる現実を。




彼は知らなかった。
ただ喜んでくれただけだ。私が今此処に存在している事実を。

でもどうして私の今の幸せを打ち砕くそんな凶器を、私の今一番大切な人の前で振りかざすのか。
大切な仲間の、その前で。









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