争いが始まる。
魔族達には戦う気など無かった。
人間の脅威となるようなことをするつもりは、今も未来も毛頭無かったのに。
........。
とうとう人間は彼女達の住まう城の包囲網を破り乗り込む。
彼女を殺すために。
そうなれば、生きるため彼等も戦わねばならない。
激しさを増す。
その中で磨いた剣技を奮い命懸けで戦う。
彼女を守る。
王との約束を果たす、そのために彼はあの時もただ彼女を想い戦っていた。
だが突き付けられるは劣勢。
敗走寸前だった。
このままでは、終わる。
そう悟り、彼女の手を取り敵に背を向けた。
守り通すと決めた。
それしか頭に無かった。
なのに、敵の勢いは止まらない。
最早勝機は無い。
そんな状況に追い込まれ、やはり想うは彼女の身。
逃げろ。
迫り来る敵から逃れるべく城から連れ出し彼は言った。
―――。
逃げない。
彼女は答えた。
そう返ってくることは、心の何処かで判っていた。
......。
しかし、彼はそれを許さなかった。
此処は引けなかった。
「また会えるから」
嫌がる彼女。
引かない彼。
―――。
時間の無い中で彼女をどうにか説得して先に逃げることを彼女に承諾させた。
また会おう。
だがその約束を抱えたまま、二人はその日を最後に生き別れる。
これが五年前の出来事。
あれからライルも自力で切り抜け事無きを得た。
しかしあの時から魔族と人間の間に決して埋まらない溝が確立され、平和という名の光は消え失せた。
ルシアス。
彼女の望んだはずの平和は影も形も無い。
そして彼女の安否も生死さえも以前分からぬままに、戦乱の時代へと足を踏み入れてしまったのである。
初め、皆も彼女の生存を信じた。
だが月日は残酷に流れ、次第に彼女の生は絶望的とされた。
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