「........ジス殿」
呟くようなロキの声が、黒く細長い影の名を呼んだ。
ジェイドやカイムそしてシエラには背を向けているためにその表情は伝わらなかったが、その声からいつもと少し違うロキを感じる。
ジェイドは浮かべる笑いをフッと引いて、カイムはシエラを自分の方へと引き寄せた。
「そんなに身構えなくともよろしい。
突然に目の前に現れておいていうのも何じゃが、私は怪しい者ではないのでな」
黒い細長い影、改め草陰から現れたロキにジスと呼ばれた老人は至極穏やかな声で警戒の意を示すロキ以外の三人へと言葉を向ける。
その声に敵意はない。
味方だという確信にはまだ至らないが、それはロキに聞けば判ることだろう。
「あの人は?」
徐々に近付き露わになる白髪と髭が印象的な老人の姿。
シエラはその姿を水色の瞳に捉えて、カイムに身を引き寄せられたままで訊ねる。
「.............あの方こそが我が主人。我々の最高であり最大の指導者。
救世主という貴方がた二人の噂を聞き、私に貴方がたを連れてくるよう命を与えた張本人。
―――あれが、ジス殿」
「ジス.....あの人が?」
目の前に現れたのは、歳を重ね威厳こそあるが決して強そうには思えない老人。
ロキの主人。
反乱軍という人間でも魔族でもない第三の勢力のトップ。
正直想像していたのとは違って、思わず疑問符が浮かんだ。
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