――――。
そして、彼の手にそっと何かを落とした。
手にひんやりとした感覚が伝わった。
「頼む」
最後に意味深気にそう告げ王は背を向けて、部屋を出て行ってしまった。
......その後に何があったのかは、ライル以外は誰も知らないことである。
転機。
この日を機に二人の何かは変わった。
ルシアス。
彼女は自分の持つ責任の重大さを知り、人々のためにこの国を守る存在にとを決意した。
勉強も渋々ではあるがちゃんとするようになった。
勉強が嫌で城中を逃げ回っていた彼女にとっては大きな進歩である。
一方のライル。
そんなルシアスを支ようと剣技に一層励むようになった。
彼女は守られる存在。
彼は守る存在へ。
そして平和は保たれる。
そのはずだった。
だが、事件は起きる。
恐れていたことが、起こってしまった。
転機を迎え一年が経とうとする頃になった。
......人間達が彼女の持つ強大な魔力を恐れ、戦争を仕掛けてきたのである。
何やら不穏な動きがあるという噂は少し前から王の耳にも入っていた。
だが、こうも早く戦争という最悪の形となるとは。
王は頭を抱えた。
.......。
このような事態を恐れていたからこそ王は、彼女が指輪の契約者となったことを公表しなかったのだが。
彼女の力と指輪。
それが合わされば、その力は計り知れないものとなる。
想像するのは容易だった。
―――。
だが戦争を仕掛けてきた人間は知っていたのだ。
ルシアスが、彼女が指輪を手にしたこと。
そして指輪と彼女の間を結ぶその関係性を。
人間達は全てを知っていた。
全てを知って、いつか彼女が人間の脅威になる根拠無い僅かすぎる可能性を恐れ、自らの身を守るために戦争を仕掛けたのである。
知るはずもないこの情報。
どうして人間は知っていた?
それは未だ判らない。
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