手の先に感じる、息子の小さな温もり。
仰ぐ天からそんな小さな温もりのする方へとゆっくり視線を落とし、それから目を伏せて温もりからその手を引いた。
"..........それでよい"
残酷な闇が、満足したようにまた笑った。
離れる温もりに冷たい絶望が満ちる。
冷たい絶望が、涙という形となって流れ落ちた。
お別れだ。
意識のない息子には声は届かない。
そんな息子に彼は、もう二度とこうして会うことは出来ないと別れを告げた。
――――っ。
そしてその人は付きまとう未練を引きちぎるように立ち上がると、フッと前を見た。
前。視線の先。その遠くには、彼の妻が居た。
きっと自分を追い掛けて家を飛び出した息子を探しに来たのだろう。
妻は彼を遠くに見つめ、手は振らないでただ深く一礼をした。
「...........」
この子のことは任せて下さい。
まるで妻がそう言っているように思えて、スッと心が軽くなった。
心配は、いらない。
そう確信したその人は、大切な家族達にゆっくりと背を向けた。
「...........行こう」
独り言のように闇に呟いた一言は、宙を漂う。
そんな中で彼は、静かに静かに何処でもない大地の闇の先に―――消えた。
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