mirage of story












"我はお前の望みを叶え、その上に十分すぎる程の猶予を与えた。

その恩、そして我とお前の間に交わした契約を忘れたわけではあるまい?
.........次はお前が我のためにその身を尽くし捧げる時ぞ"





分かっている。
判っている。
だが何にも変えられない程に愛おしい息子を前に、身体が拒んでいるんだ。

心の中でそう叫ぶと、それを感じた闇が笑う。




















"決断が出来ぬというのなら、契約を無に返すか?

さすれば苦しみ悩むこともあるまい。

ただお前があの時に望み我が叶えてやった願いは叶わぬまま。
あの時その子は死んでいたというのが事実のまま。契約上であったからこそ在るその子が生きた今までの時は無くなり、全ての者の中からその子の存在は消える。
それだけのことよ。


.......そして禁忌を犯したというお前の罪だけは残る。
我はお前たち人などよりもずっと寛大だ。それでも構わぬぞ?"







笑う闇は知っていた。
その人が自分の言葉に決して縦に首を振ることはないということを。振ることが出来ないということを。

それを知っていながら、闇は感情を弄ぶように問う。
残酷な闇だ。




案の定その首が縦に振られることはなくて、その人は恐れを全面に出した顔をして何もない天を仰ぐ。

それだけは、それだけはどうしても駄目だ。
愛する人との別れより、もっと一番恐ろしいことを想像して必死に否定の意を示した。










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