mirage of story












父を求める息子のか弱い声は、そのか弱ささえ失い消えていく。
うっすらと父を求め見つめる瞳は、ゆっくりと閉じられていく。





小さな身体で小さな歩幅で、必死に追い掛けて疲れてしまったのだろう。


ぐったりと意識の堕ちた息子に触れ、そして名を呟くように呼ぶ。

意識がないので、反応はなかった。
聞こえていない。
そう分かっていても、愛する息子の名を呼ばずには居られない。


























".................息子と離れることが、そんなに名残惜しいか。

まったく、実に人というものは愚かな程に未練がましい賤しい生き物よ"





息子の名を呼ぶ自分の声が空間に響き渡る。
そんな中、唐突に重なり聞こえるのはあの日と同じ深い闇の声。
地を轟かすように低い人を嘲るような声。

その声にその人は思わず身を大きく震わせた。











"我が契約者として情けない。
今のお前の姿は実に滑稽で、実に面白い。

.........だが度を過ぎればそれはただの馬鹿ぞ?"



「..........」




姿はないが聞こえる闇の声。
それは闇に与えて貰った猶予の終わりを意味し、そして闇が自分を迎えに来たことを告げる。



未練に負け逃げることは許されないことを、闇の存在に突き付けられる。

自分と闇との間にあるのは、蜘蛛の糸のように絡み付く決して破れぬ契約だから。
どんな想いも、この絶対的な契約を前にしては脆く崩れ去る。










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