その人はついに息子であるその少年に、全てを話すことが出来なかった。
その人の妻。つまり少年の母は全てを知って涙ながらに受け止めた。
だがまだ幼い少年に全てを告げることはあまりに酷で、全てを知らせないままであることを両親は選んだのである。
それは全部、少年のため。愛する息子のため。
そう思っていながらも、知らせない罪悪感は襲った。
行かないで。
.......っ。
後を必死に追い掛ける足音が、そんなか細い言葉を最後にパタリと消えた。
足音と未練を振り払おうと歩く速度を上げていたその人は、その気配にビクリと足を止める。
消える足音。
心臓が止まってしまうような、そんな気がした。
此処で振り返ってしまえば、また未練が大きくなる。
抱き締めてしまいたくなる。
きっと大丈夫だ。
振り返っては駄目だ。
........そうは分かっていても、振り返ってしまう親の性を呪う。
振り返る。
その視線の先には、倒れ込む息子の姿。
気が付いた時には、駆け寄って抱き上げていた。
お父さん......。
朦朧とする意識の中で必死に自分を求める息子。
胸が引きちぎれる気がした。
何も知らない息子を置いて行こうとする心に、何よりも鋭い痛みを与える。
罪悪感。
それと共に恐れていた膨大な未練の塊が、決意しかけていた心にドンと腰を据えたのが分かった。
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