頷いたら最後。

囁く悪魔はほくそ笑み、人の心に拍車をかける。
そうなってしまえば、もう後戻りは出来ない。















".........さぁ、お前の望みは何だ?"



甘い罠に嵌ってしまったその人は、這い出せない程の深い闇に堕ちる。

追い詰められたその人は、もう正常ではなかった。
甘い言葉に導かれるように、その人は願いを口にする。














『...................どうか、この子に再びの命を』


世界を巻き込んで、運命が変わった瞬間だった。








"――――ふんっ。
既に消えた命の復活を望むか。

........尽々、人というものは愚かな生き物よ。
判っておるのか?
お前のその望みは、世界の理に著しく反することになるということを"




聞こえる甘い囁きが嘲るような、でも何処かこの状況を楽しんでいるような笑いに変わった。

その笑いを帯びた声に、その人は判っていると短く答えた。













"面白い。
それを判っていて禁忌を犯そうというのか。


.......気に入った。気に入ったぞ!
お前のその望みを叶えることは我の力をもってすれば、他愛ない。

叶えてやろう。
お前の愚かなその願いを"



その言葉にその人の表情が僅かに綻ぶ。

願いが、叶う。
その事実だけが、その人の中を駆け巡った。











"........だが"



でもその事実だけに舞い上がる訳にもいかない。

甘い言葉。
その裏に隠れていた黒く蠢く闇が、ついにその顔を覗かせるからだ。






そして甘い言葉に誘われて願いを叶えてもらう以上、その闇を受け入れることは絶対条件。



もちろん覚悟はしていた。
禁忌を犯す覚悟があるのだから、当然闇を受け入れる覚悟もある。

だが実際にその時を前にすれば、その覚悟は無意味に思える程の恐怖がその人を襲う。









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