涙の先に見える彼。
これ以上見ていれば、自分が可笑しくなってしまう。
シエラはハッと彼から視線を逸らした。
―――――。
彼女が視線を逸らした。
逸れた瞳は彼の蒼色から逃れ、その端に他の色を映す。
揺らめく炎の紅。焦げる煙の黒い色。
その色達の中にもう一つ、揺らめき近付く影が映る。
.........。
蒼から逃れたシエラの瞳は、今度はその影に釘付けになる。
「どうした?」
蠢く影は彼の背後。
彼はまだ、気が付いていない。
シエラは影を指差して、その存在を彼に報せる。
ッ。
その指差す先をライルは振り返った。
「何者だ!」
「誰!?」
二人が叫ぶのはほぼ同時。
ッ。
ライルは握り直した剣を構える。
シエラはさっき彼に剣を振り落とされてしまったために何も出来ず、ただ近付いてくる何かを見据える。
「此処に居ったか」
唐突に近付いて来る者が口を開いた。
低く威圧感のあるその声。
炎の中で熱気に包まれているはずなのに空間が一瞬ヒヤリとした。
(この声は――――)
低く轟くようなこの声。シエラには聞き覚えのある声だった。
ゾクリッ。
彼女に迸る激しい嫌悪感。
「ロ、ロアル様」
聞こえた声に、ライルはシエラの最も憎む者の名を口にした。
一瞬耳を疑うが、聞き間違うはずは無い。
ロアル。
忘れもしない、シエラから大切な人を奪った仇。復讐を誓った男。
忘れない。
沸々と込み上げて止まない憎しみの核たる者を、彼女は忘れはしない。
迸る嫌悪感は、実に正しかった。
もっと早々に結び付けるべきだった。
彼が魔族。
魔族の長であるロアルと繋がらないはずはない。
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