誰よりも強大な力を持っていたルシアス。
そして誰よりも、その力で誰かが傷付くことを嫌ったルシアス。
優しい心を持った女の子。
そんな誰よりも平和を願った彼女が生涯を終えても尚、この世界に争いを残してしまった。
なんと皮肉なことだろう。
悪いのは彼女じゃない。
悪いのは彼女の力を恐れてしまった人間でもない。彼女を守ろうと交戦した魔族でもない。
彼女にそんな運命を与えた神でもない。
悪いのは、哀れな彼女達を戦争へと導いた何か。
戦争というものは、何者かの争いへの意図が無ければ起こらないものだ。
たとえ人間がルシアスの力の強大さを恐れていたとして、戦争を起こすには何か相応のきっかけが無ければ始まらない。
人命を失う戦争のきっかけを、人間達が自ら捜すわけはないのだから、誰か他の者がそのきっかけを与えたのだ。
そのきっかけを与えた者。
それがつまり、戦争へと導いた悪の意図。元凶。
その元凶は世界に戦争をもたらし、ルシアスに死を与えたこの今も、この世界の何処かで眈々と生きている。
壊れかけたこの世界に、とどめを刺すため。
世界の崩壊をその漆黒に塗りたくられた胸の内に、色濃く願いながら。
現実の裏に隠されたこの事実を知る者は少ない。
隠し守られてきたこの事実は人々に知られることなく今、歴史の中に埋もれようとしている。
だが僅かながらこの事実を知っている者の中では、忘れられることはないだろう。
この決して忘れ去られてはいけないはずの事実を。
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