mirage of story

〜3〜








皆の記憶の中では、もう過去の人。

名は誰もが知っている。
そして皆は、その名を聞いてはただ哀れむだけ。



ルシアス。
彼女は誰からも好かれていた。愛されていた。そして彼女も誰をも愛していた。


















そんな彼女が短い生涯を終えたのは、もう今から五年前。

彼女がまだ十三歳という、幼い子供であった時のこと。
心優しき皆から愛される彼女は、たった十三歳でその命を奪われた。


彼女がもって生まれた強大な力がもたらした、戦争という最大の不幸の災禍に飲まれて。
その小さな灯火は、戦火の猛々しい息吹きによって呆気なく吹き消されたのだ。








何故、彼女は死ななければならなかったのか。

彼女には何の罪もないのに。
ただ彼女は、力を持ってこの世に生まれただけなのに。


ただそれだけなのに、どうして神は彼女に死を与えたのか。







力。
それは人を守る頑強な盾であり、また人を傷付ける鋭い刃。

強大な力に人は皆憧れる。
力さえあれば英雄にだって、勇者にだってなれるのだから。他のものよりも一つ上に立てるのだから。






だけれど、実際にはそんな力を手にする者は僅かで、力を強く望む者には手にすることは出来ないものだ。
大抵はそんな力を望まない者が神が与えた運命の悪戯で、思いがけずにそれを手に入れる。

ルシアス。
彼女の場合も、決して例外ではなかった。









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