彼女は、ルシアスだ。
彼女はシエラという存在で、またルシアスという存在だ。
それは彼女自身も知らぬ真実で、だが確信ある真実。
シエラでさえルシアスでさえ。
彼女を想い続けるライルでさえ。
彼女と共に過ごす彼等さえ。
そして彼女を知る誰でさえも、知り得ないはずの真実。
「貴方が、生きていて下さったとは」
誰が信じようが信じまいが、真実というのは揺るがないもの。
誰もが知り得ぬこの真実を、この老いぼれたジスだけがこの世界の中で一人噛み締める。
あぁ。
この真実は、必ずや世界を変える。
荒み腐った世界に神風を、変革を。そして希望を。
噛み締める真実に、ジスは暫くの間その中に浸る。
「.........行かねば」
そして思い立ったように徐に水面に背を向けた。
行かねば。
その一言を空間に残し、ジスはそのまま何処かへと去っていく。
残された空間。
そこにはいつの間にか何も映らないただの水面と化した泉に描かれる、ほんの僅かな波紋だけだった。
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