大切な人の仇を。
その言葉に不覚にも今の彼の姿と今の自らの姿が重なることに、彼女は動揺した。
(ライルは今....自分にとって大切な者のために、何もかもを捨てて此処にいる。
それって....まるで)
私と同じだ。
動揺にそれを否定しようとしたが、無理だった。
目の前のライルの姿に、今の自分の姿を重ね合わせる。
恨むべき相手。魔族......戦うべき敵。
そのはずなのに。
エルザを、大切な人を失い途方に暮れた自分。
自分から大切な人を奪っていった者を、絶対許せない。どんなことをしてでも仇を討つ。
そう決めて、すべて投げ出し外の世界へと踏み出した自分。
ただ復讐を目的とするだけの、空っぽの自分。
そんなシエラすべての姿を、ライルの姿が映し出していた。
ライルにどんな理由があろうとも、何の罪もない村の人たちを傷付けるなんて許されることじゃない。
ましてや、ライルは魔族だ。
シエラが憎むべき魔族だ。
同情なんてしちゃいけない。
そう思う。
だけど、シエラには大切な人を失う辛さが分かる。
痛いほど、それは分かっている。
シエラもまた、大切な人を失ったのだから。
だから少し、ほんの少しだけライルが哀れに見えた。
彼もまた、この残酷な世界の被害者なのだと思えた。
「お前......どうして」
「ッ!」
ハッと気付き、前を見ると焦るライルの瞳がこちらを覗き込んでいた。
美しい彼の蒼に視線を囚われた。
そして、頬には冷たい感触。
―――。
その冷たさは頬を伝い、流れ落ち消えていく。
それが自分の涙だということに彼女は気が付く。
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