「ふぅ」
不本意ながら深まってしまった不安に小さく溜め息をつくジス。
これ以上深まらないようにと逸らしかける視線。
ッ。
だが不意に逸らしかけた視線の端に動きを感じて、ハッと視線をまた戻した。
何だ?
ジスはその動きを把握すべく水面に映し出されるものに意識を集中する。
やはり見えるのは四つの人影。
三人の男、そして一人の―――。
「なっ..........」
そして一人の少女。
オレンジがかった長い茶色の髪が揺れる、そして煌めく澄んだ水を思わせる瞳。まだあどけなさの残るその顔。
背を向けていた少女が、こちらを振り向いていた。
振り向いたとはいっても彼女としてはこうして遠くから見られているとこなんて知る由もないはずなのだから、偶然だろうが。
そんな少女の顔。
シエラというその少女の顔。
目にしたその瞬間、ジスは息が止まる思いがした。全身に何か撃ち抜かれたような衝撃が走る。
その衝撃に老いて衰え始めたジスの身体は後ろに仰け反りそうになるが、どうにか抑えた。
衝撃。
それは今瞳に映るものと、脳裏を迸る記憶の奥底に存在し続けるものが交錯し生まれる。
記憶と現実。
そしてその不合理性。
衝撃は事実として繋がらない二つの間で激しく飛び交う。
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