mirage of story








そんな距離を間に残した所で、ライルは距離を縮めるのを止める。


もう一歩前に踏み出した方が話やすいだろうに、彼が自分とロアルの間に置いたのは何とも微妙な距離感。

それはライルが何処か本能的に感じた、これ以上近付いてはいけないという危機感に似た警告。
そしてロアルの片隅に見える床に突き立てられた剣とその傍に落ちる紙切れに対しての、違和感と警戒の結果である。

微妙な距離を埋めるこの一歩を、どうしても踏み出してはいけない気がした。




何か、何かいつもと違う。
そうライルが感じたのは、勘違いではないようだった。








「..........私は疲れているのでな。話があるのなら手短に話せ」



その距離をロアルは感情の籠もらない瞳で見下ろし、その視線を逸らさないまま淡々と了承する。

それと同時に彼は床へと突き立てた剣を片手で勢い良く引き抜いて、腰の鞘に収める。
だがその隣に落ちるただの紙切れのように見えるあの手紙は、拾おうとはしなかった。










「........明日の件―――全ての人間達への絶滅を掛けた宣戦布告、本当になさるおつもりなのですね」



ロアルの返事とその行動に、少しだけ間を置いて少し躊躇いがちにそう切り出した。


不気味な程に穏やかな時の中で、ライルの口から放たれた"絶滅"と"宣戦布告"いう際立って凶悪なオーラを纏う単語が相反するように漂う。
その単語は憎いくらいに美しく後を引き響いて、その余韻が空気を震わせた。