「..........下らぬ人の感情など、我の力でこの腐り切った世界共々この手で蹴散らしてくれる。
動き出した運命は佳境を迎えた。
もう、誰にも止められん」
涙の陰に、ロアルの声が重なる。
それは低く地を轟かし、全てのものを恐れさせるような声。
それはロアルのものであり、またロアルのものでない。
床に落ちた手紙を見つめ立ち尽くす彼の背後には、二つの陰が犇めく。
それは本来の彼自身の陰と、それに覆い被さるような漆黒の狂気滲む陰。
その二つが競い合い互いを押し殺すように、ロアルの中に共存する。
零れる言葉。
浮かべる笑み。
そしてそれに相対するように、流れる涙。
それは全て、本来の彼のものであるのか。
それとも.....。
トントンッ。
「.....俺です。
今、よろしいでしょうか?」
渦巻く感情を遮るように、部屋の扉を叩く音がした。
それからロアルにとって聞き慣れた、まだ幼さを帯びた少年の声が続く。
その声に、扉の向こうに居る者の姿を想像した。
「.....入れ」
ロアルは扉の方を軽く顧みて、短くそう答える。
高ぶった感情を押さえ込め、頬に残る涙の滴を振り払う。
漆黒の鋭い眼光が、閉じている扉を貫いた。

