ロマリア国王ロアル。
手紙の最後に記されていたのは紛れもない、今彼が手にする肩書き。
ロマリア。
それは、この世界に存在する魔族の大国のその名。シエラ達が最大の敵とするはずの、まさにその国。
幾つか魔族の国は存在するがその中でも、今この世界に存在する魔族の国の中で最も大きい国。
最近では周りの魔族の小国を取り込み、ロマリアという名の一つの連合国となっている。
いわば、魔族の砦。
そして今現在、そのロマリアに居城を構えるのが、本来は王位を受け継ぐはずのなかったロアルである。
そして今、彼が居るのもロマリアに構える居城の私室で、彼は仮眠を取ろうとベッドに向かう中で普段は開かない引き出しからはみ出していた手紙を見つけてしまったのだ。
自分の中に封印し、その引き出しの奥深くにしまい込んだはずの―――かつて愛した今は亡き妻からの手紙を。
何の拍子で、奥深くにしまってあったそれが彼の前に現れたのは分からない。
だがそんなのは今はどうでもよくて、その手紙によって紐解かれた感情をいかに処理すべきかが問題だった。
怒り。悲しみ。
戸惑い。それとも苛立ち。
どれにも当てはまるようで、実際はどれにも当てはまらない感情がロアルの身体中を巡る。
長い間感じていなかったような、懐かしささえ感じ得るその感情は、ロアルの中で手紙と共に封印したはずの"人らしい感情"。
それは、ここ数年の間ですっかり彼から抜け落ちていたものだった。

