蘇る記憶。
そう、あれはロアルと初めて出逢った日。
あの時も同じ―――あの時ロアルも、自分のことを魔族と呼んだ。
.......。
彼女の心の片隅に一つの嫌な予感が芽生える。
(記憶を無くし死にかけていた私を母さんは救い、当然のように人間として育ててくれた。
私は人間。
.....そう思っていたわ)
でも五年前以前の時間。
今の自分よりずっと多くの時をどのように過ごしていたのか。
何一つも分からない。
今更、自分の存在が曖昧すぎることに気が付いてしまう。
今の自分が本当の自分であることを、今までシエラは疑いもしなかった。
だがロアルも今目の前にいるライルも自分のことを魔族と呼ぶ現実。
ゾクリと悪寒が全身を迸る。
(――――....私は)
「人間.....何かの間違いだろう?
確かにお前から力を感じる。
勘違いじゃない、お前から感じるのは俺達魔族の証―――魔力だよ。
人間がそんな力、持っているはずがないさ」
「――――.....」
彼の言葉には自信と、それに伴うくらいの説得力があった。
込み上げる不安が言葉を詰まらせる。
魔力。
魔族であるという証。
嫌な予感が次第に膨らむ。
(......)
「私は」
言葉が出てこない。
私は魔族じゃない、人間だ。
今までの絶対的な自信が嘘のようだった。
シエラの中の予感は、底知れない不安となる。
―――。
その不安からか、今まで剣を握っていたシエラの手が少し緩んだ。
キイィンッ。
ライルはその一瞬を見逃さない。
その隙を見極めて一瞬で剣を振り落とす。
「!?」
「いつまでそんなものを構えているつもりだ?
......安心していい。
お前を傷付ける気は無い」
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