誰なのだろう。

あの蒼色を彼女はとてもよく知っている気がして、また何にも知らない気がした。






(.......うぅん)



もう一度考える。

夢の記憶。
夢は思い出したのだけれど、この涙の理由が思いつかない。



そもそも、理由など無いのか?
単に涙腺が緩くなっただけとか、そんな可能性もある。

というのも、シエラは昨日一年ぶりにこの村へと帰ってきたばかり。
ついさっきまで自分のベッドで寝ていたのだから別に泣くようなことなんて起こっている時間はなかったはず。









(この涙.......夢の中のあの人が何か関係しているのかしら?)





でもあの少年は夢の中で彼女の名を呼んだだけ。
ただ一言言葉を掛けただけ。


夢から覚めた彼女には、あの少年が誰であるかすらも判らない。
そもそもあれは現実と繋がるものであるのか、単なる夢の空想の話であるのかの判断も危うい。

記憶を失っている彼女には、先程見たその夢が例え過去の現実に繋がるものだとしてもそれを判断することは適わない。
つまりはどのみち、今の段階ではその夢の正体は判らないのである。











(........でもあの夢、何だかとても哀しくて怖かった)





闇。真っ暗な闇。
背後には迫り来る足音。
そしてその足音から逃れるように、必死に走る小さな女の子。


寒くて、怖い。
誰も居なくて孤独な闇。
走っても走っても、出口が見付からない。


..........。
夢であるのに迫る死の感覚は嫌に鮮明すぎた。







(涙の理由は、きっとそれね)



現実でも感じたことの無い程の恐怖。
夢でも怖いものは怖い。

言わば悪夢。
夢で泣くなど情けないが、それ程怖い夢だったということだろう。







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