クシャリッ。
視線を落とし追う手紙の小さな黒い文字。
その視線が唐突にグラリと揺れて、手紙を持つ男の手が次第にわなわなと震え始める。
何が気に入らなかったのか、その手の甲にはスゥッと青い筋が浮かぶ。
何が起きたのか。
そんなことを考える暇もなく、男はいつの間にかその手紙を握り潰していた。
グシャグシャに皺が寄った手紙は、込められた手の中に埋まり読むことが出来ない。
だが、ただ一行だけ。
手紙の最後に書かれた一行だけが、グシャグシャになった紙の端から見えた。
"どうかあの子に、そして貴方に幸せを。
―私の永遠の最愛の人、ロマリア国王ロアル様―"
力の込められた指の隙間から覗くその文字は、異様な程の存在感を与えた。
その存在感に男ロアルは怪訝そうに顔を歪め、それから目一杯力を込めていた手からスッと不意に力を抜いた。
ヒラリ。
力の抜かれた手からグシャグシャになった手紙がすり抜け、床へと音もなく落ちた。
視線はその落ちた手紙を追い、そのまま暫らくそれを見つめ続ける時間が流れた。
「ッ!」
キィンッ。
暫らく無言のままに落ちたそれを見つめていたロアルは、突然込み上げてきた感情が押さえきれなくなったといった風に、腰に掛けてあった剣の柄に手を掛け引き抜いた。

