手紙に書いてあるのは、ほんの数年前のこと。
男とこの手紙を書いた男の妻である彼女にしか知り得ない、広い世界にとっては小さな小さなこと。
だがその広い世界に小さいながらも、決して埋まることのない深い深い傷を付けたこと。
ほんの数年前。
記憶の中にも、はっきりと残っている。
なのに男の中では、何だかそれがとてつもなく昔のことのように思えた。
"運命というものは、残酷なものなのですね。
あの子はきっと、貴方を捜して私の元を離れていくでしょう。
たとえそれがどんな形であれ、その時は必ず訪れるわ。
...........貴方があの時に危惧したように、もう運命は動き始めてしまった。
動き始めた運命は、もう人の力ではどうすることも出来ない。
人は無力。ただ身を任せるしか出来ない。
このままでは、いずれ貴方の最大の危惧が現実となってしまう。
このままでは貴方とあの子は――――最悪の形で再会を果たすことになる。
私はただ祈るだけしか出来ない。
貴方とあの子が、再びこの世界で相見ゆることのないように。
でも、もしその私の祈りが届かなかったその時は.......どうかあの子に貴方の加護を。
貴方にまだほんの少しでも、あの子の父親としての貴方が残っているのなら―――――どうか貴方も、あの子が幸せであることを祈ってやって下さい。
それがきっと、あの子にとっての最大の救いになります"

