緑の表紙に歪むことなく一列に並んだ、金色のその五つの文字。
その文字に、彼女の姿が重なる。
「上手くやり過ごしてくれていればいいが......アイツのことだから、不安なんだよなぁ」
誰に言うでもなく、ジェイドはまたボソリと一人呟く。
その声は狭い毛布の中という空間のせいか籠もっていた。
だが聞く者の居ない独り言なので、さして支障はない。
呟き籠もっている彼の声はいつもと同じ調子で、深刻さというものや真剣さというものが欠けている。
これが彼の特徴であるのだから仕方がないが、心の内がどうであるかが判断出来ないのは困り物だ。
だが呟くその言葉は心から彼女を案じるもので、文字を見つめる紅の瞳は心なしか陰っているように見えた。
温かな毛布の中で、彼の瞳の陰だけが冷たい。
ジェイドは暫らくの間、表紙の文字を見つめ続けた。
それから一つ溜め息のようなものをつき、何かを持て余すように指先で本の表紙を撫でる。
新世界白書。その原本。
本来メリエルの街の中央図書館で、司書官の管理の元で書庫の奥底に存在するはずのその本。
そもそもそんな本がどうして今、ジェイドの手元にあるのか。
しかも今ジェイドが居るのは、もう既にメリエルの街の中ですらない。
そんな彼が、どうしてこの本を持っているという状況にあるのか。
まずは、それを説明しなければならないだろう。

