丘をひたすら駆け降り、シエラはとうとう村の前に辿り着く。
「!」
やはり丘から見た光景は見間違いではなかったらしい。
今、目の前で自分の村が激しい炎に包まれていた。
火事?
いやそれとも何者かによる襲撃か?
.........。
普通ならこの事態、パニックになった人の声が聞こえてきそうなものだが聞こえない。
人の気配すらして来ない。
もう逃げた後なのか、それとも――――。
シエラは前者であることを心の中で願った。
ッ。
(何か、聞こえる)
黒煙を上げ燃える炎。
人の気配を探し見渡すその時に、何か炎の中から聞こえた。
ッ。
それは人の声ではない何かの音。
燃える炎に耳を澄ませる。
「........」
甲高い。
決して人には出せない、耳に残る嫌な響き。
キイィン。
金属がぶつかり合う音。
「!」
聞き覚えがある。
その音に彼女の思考は嫌な方へと向く。
(誰かが戦っているわ)
炎の中から聞こえる音は誰かが剣を交えてる音に限りなく似ていた。
いや、そのものだった。
カイムの村で剣を教えてもらった時に聞いた音。
甲高く鋭い武器の音。
――――。
まさか自分の故郷で聞くことになるとは。
この村は平和で戦いには縁がない偏狭の小さな村、勿論これから先もずっとその平和は崩れないとばかり思っていたのに。
(誰かが、村の者以外の誰かがこの中に居る!)
平和。
それ故の代償に、村の者は武器は持たなかった。
ということは、だ。
村の人じゃない者が村の中に居る。
聞こえるはずのない音がそれを物語る。
燃え盛る村。戦いの音。
この状況から結び付くものはもう悪い結果しか無い。
(......行かなくちゃ)
ザッ。
腰から下げた剣をそっと抜き燃え盛る炎の中へと彼女は飛び込んだ。
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