mirage of story

〜4〜








(.......行っちゃった)




ライルが去り際に言い残していった言葉の余韻の残る沈黙の中。
シエラは彼が消えた暗闇の先を見つめ、一人立ち尽くしていた。







『村には近付かない方がいい』

『関係ない奴まで巻き込みたくはない』


ライルの放った、意味深な頭の中で谺する。










(本当に何なのよ)



全く意味が分からない。
言葉の意味も、そして結局彼が此処に居た理由も。






(何よ、関係のない奴まで巻き込みたくはないって。
村に近付かない方がいいって)




ライルの言葉にシエラの疑問は募る一方。

蘇るのは垣間見てしまった彼の真剣な顔。哀しい顔。
あの顔を思い出すと、何だか胸が締め付けられる。




ライルが言い残した言葉。
それが引っ掛かって離れない。








(村に近付くなって....一体)




ライルは平和のための仕事だと言っていた。

その言葉の平和の意味は分からない。
あの真剣な瞳―――嘘ではないことは確かだと思った。



平和。
その言葉はシエラ自身も望み求めるもの。

なのに、そのライルの"平和"という言葉に何だか胸騒ぎがした。










このまま今日、村に戻らずにいたらもう二度と帰れない。
もうみんなに会えない。そんな気がした。

根拠のない不安が、波となり一気にシエラを襲う。



湧き上がる不安が、よりシエラの疑問を深め混乱を誘う。









(戻らないと)



そう思うシエラの足はそう思うより先に前へと走り始める。
ここから村までの道の記憶は曖昧。だが、シエラは構わず走った。







(この感じ....)



この得体の知れない不安で埋め尽くされる気持ち。
前にもどこかで感じたことがあるような。





あぁ、これは。
脳裏をある光景がよぎる。


静かな部屋。テーブルの上に置かれた一枚の紙切れ。
言い争う声に、炎を上げ燃える丘。