紅色の影の問い掛けに、碧色の影はスッと目を伏せてそう答えた。
「平和....それは尊いものだ。
たとえ今が平和になったとしても、いずれ壊れる時が来る」
碧色の影は、まるで遥か先の遠すぎる未来を全て見透かしたようなそんな声でそう言い、再び目を開ける。
そして深々と続く大地の裂け目の先の漆黒に、キラキラと輝く宝石のような瞳に哀れみにも似た悲しい光を灯してジッと見つめた。
「―――――赦せ。我が同胞よ。
これが、我らの世界の歩むべき道なのだ」
その瞳に込められた哀れみは、この漆黒の先に眠る....一匹の竜に向けたもの。せめてもの償いの哀れみだった。
漆黒の先に眠る、孤独な同胞へ。
世界の平和のため、自らが封印した哀れな同胞へ。
碧色の影と紅色の影――――この世界の王とされた三匹の竜の中の
水竜と炎竜は欠けてしまったもう一匹の同胞へ、そしてこの自分たちの生きる世界の行く末へ静かな祈りを捧げた。
「幾千の月日を、出来るのならばこの世界の終わりまで――――どうか安らかに」
――――ゴオォ....ッ。
暫らくの間、沈黙と共に祈りを捧げて水竜と炎竜は深く刻まれた大地の傷跡に背を向けた。
すると大地は轟音を上げて、自らに刻まれた傷跡を癒していくように大きく裂けた大地を埋めていく。溢れる憎しみも哀しみも苦しみも、全て大地の奥底に押し込めて。
......。
音が静まり辺りを見渡せば、そこには当然のように”平和”な世界が広がっていた。

