言葉を失った理由。
それはシエラは自分の体の上に覆いかぶさる何か。
(.....か...あさん?)
黒い塊。焦げた匂い。
そして伝わる、熱さ。
......エルザだった。
服は焼け焦げ、皮膚は爛れ、一瞬で変わり果てた彼女の姿だった。
そうだ。
炎を前に死を覚悟した時に感じた、突き飛ばされる感覚。
エルザが咄嗟に炎からシエラを庇い突飛ばしたのだ。
「母さんっ!」
ぐったりとするエルザを抱き起こした。
エルザはひどい怪我で意識を失っている。
シエラを庇い、まともにロアルの炎を食らったのだろう。
「母さんを......よくも!」
シエラは炎を放った張本人の元を見た。
憎しみの込もった眼差しで。
黒を纏うその姿を、おもいっきり睨み付ける。
―――――ッ。
シエラは体中が熱くなるのを、この時感じた。
体中のすべての力が沸き上がる。
そんな感じがした。
何だろう、この感覚は。
ロアルに対する憎悪に、今まで味わったことない不思議な感覚が重なる。
「.....また余計なことを。
まぁいい。お前が邪魔しようが、次で終わる」
ロアルの声が夜空に冷たく響いた。
まだ炎の熱気が残る空気に溶け込むように、その冷たさはじんわり交わる。
次で終わる。
その言葉を現実にするため、ロアルの手元に再び炎が灯り炎の獣が現われる。
(........次こそは、二人とも殺される。
嫌、嫌だ。
死にたくない.......母さんを失いたくない)
「.......さらばだ。愚かな人間どもよ」
瞬間。ロアルから炎が解き放たれた。
ゴォォッ。
地響きに似た轟音と共に巨大な炎が迫り来る。
あの炎に当たればシエラだけでなく自分を庇って傷を負ったエルザも、シエラにとって大切な人も確実に死んでしまう。
(..........嫌だ.....それだけは絶対にさせない)

