mirage of story

〜3〜
 
 
 
 

 



「おい、キトラ。
ちゃんとついて来ているか?」




人で溢れ返る正午の街の中。

騒めく雑踏の中で一人の少年が自分の後ろについて来ているはずの部下の名を呼ぶ。









「な....なんとか大丈夫れす、たひちょふ────」



少年は街の者でない。
かと言って旅人でもない。

ライルとキトラ。
そのライルの声に部下であるキトラは言葉にならない声で自分の存在を伝える。



どうやら"何とか大丈夫です、隊長"と言っているようだが。
語尾だけでなく言葉全体があやふやである。

―――。
ちゃんと言葉が言えてない時点で、大丈夫ではないと思うが。



だが、そんなヘロヘロ状態のキトラにはお構い無しにライルは続けて言う。










「そうか、じゃあもう少し奥まで行くぞ。
離れるな?」


「は....はい!」





キトラはふらつく足で、人混みを掻き分けながら必死にライルを追う。

でも人、人.....そして人。




人混みの隙間から見えるライルの姿は、キトラの瞳に映る度に少しずつ遠ざかる。


どうしてあの人はこの人混みを、いとも簡単に擦り抜けていけるのか。
前を行く隊長の姿に、キトラは感服する。








(────隊長と、はぐれる!)




必死に追うキトラ。
それに対し、どんどん遠ざかっていくライルの姿。


まずい。
早く追い付かなければ。

そう思い、キトラは走る走る。



でも、押しては返す人混みの中。
キトラのそんな頑張りは無意味に等しかった。










「た、隊長ぉ!」





 


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