間一髪、シエラはエルザを引き寄せて炎をかわす。
熱風が肌を焼く。
「母さんに手を出すなっ!
私は.....私はあんたに指輪は渡さない!」
シエラは渾身の力を込めてそう言った。
「..........なら仕方あるまい。
渡す気がないというのなら」
ボォッ。
ロアルの手元に再び炎が灯る。
その炎は一点へと集まり、一つの形を形成していく。
それは獣。
炎を帯びた獣が姿を現わす。
「奪う、それだけだ」
その言葉と共に、炎の獣が飛び掛かってきた。
おぞましい殺気を纏った獣が、二人に牙を向く。
(なっ.....)
炎は風の如くシエラ達に襲い掛かる。
速い。速すぎる。
逃げている暇などなかった。
あっという間に、炎の紅が目の前に広がる。
炎に飲まれる。
シエラは目を閉じ死を覚悟した。
(殺される.....)
シエラは静かに死の訪れを待つ。
そんな彼女の中にあるのは、何も出来ない自分への苛立ち。悔しさ。
不思議と恐怖はその後ろにいた。
死を感じた時間。
妙にこの時間が長く感じられた。
ドンッ!
死を覚悟した。
なのにそんな彼女に訪れたのは死ではなくて、不意に何かに突き飛ばされる衝撃。
そしてその反動と、鈍い痛み。
ドサッ。
その衝撃で、地面の草の上へと突き飛ばされ倒れ込むシエラ。
身体が痛い。
何が起こったか?
それを確認するために、目を開ける。
(........え....)
目に入った光景。
それを前に反射的に息を飲む。
突き飛ばされた衝撃で、草の上に倒れ込んだシエラ。彼女には何の怪我もない。
何かに突き飛ばされたおかげで、炎をかわすことが出来たのだろう。
服が軽く焦げているくらいで火傷はない。

