彼女自身も知らない彼女。
知り得ない自分。
分からないことばかりで不安は濃くなる。
........。
特に彼等に、ロアルとライルに会ってからは尚更彼女の中に常に不安が蔓延った。
表には出さない。
だが不安は確実に大きく重くなっていた。
ロアル。
あの男のことに関して言えば、執拗にあの指輪を奪おうとする。
ただの指輪ではない、今は亡き魔族の姫の持ち物だったという曰わく付きの指輪。
何故あの男がこんなにも指輪を求めるのかも大いに疑問ではあるが、それよりもそんな曰く付きの指輪を何故自分が持っているのかの方が疑問だった。
そしてライル。
彼はその魔族の姫、ルシアスとは親しい間側であったようで彼女の指輪を持つ自分を憎しみ恨み殺そうとしている。
彼は姫を殺してお前がその指輪を奪ったのだというが、記憶を失っていることもあり勿論身に覚えは無い。
シエラはただ幸せを願って、ただシエラとして生きてきた。
それだけのはずなのに、知らない間に醜い争いの中に巻き込まれていた。
(....この剣の力だって、あいつらが言うことだって何も分からない。
ただ分かるのは、分かってしまうのは........きっと私は"普通"では無いということ)
本当の自分。
自分の知らない自分が知りたい。
でも知るのも怖い自分が居て、その矛盾に困惑する。
知ってしまえば、今居るこの自分が無くなってしまいそうで怖くて堪らなかった。
自分の存在が普通では無いという確証を得たく無かった。
(もしかしたら私は、あのライルが言っていたように彼の大切な人を殺して、この指輪を奪ったのかもしれない。
その可能性だって、捨てきれないのよ。
私は私を知らない。
そう.....今信じている私は全て偽りなのかもしれない)
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