でも、これは普通の剣じゃない。
この剣を使い始めてから、そう日が経ってるわけではない。
―――。
だがそれでも感じる不思議な力は、その剣を握る度に深まる。
普通の剣には無い明らかな異質感が、この剣にはある。
不思議な力。
エルザ―――この剣の本当の持ち主は彼女。彼女の形見。
彼女の声に導かれ、今の持ち主となったシエラはこの剣の持つ不思議な力に触れた。
詳しいことは一切分からない未知の力。
魔族の中に息づく魔術とも違うはずだった。
人間の中に僅かにまだ灯火を灯す聖術とも違うだった。
だがこの剣の力は、シエラ達を幾度も救った。
彼女達にとってはまるで、神のような力。神の術。
そもそも神などというものが本当に存在するかすら定かではないが。
力の真相。
それを知るはエルザ彼女一人だけ。
だが彼女はもう居ない。
真相は迷宮入りである。
(........この剣の力。
本当に何なんだろう?)
剣を見つめ彼女は思う。
(ライルから逃げる時、ランディスで黒い風が迫ってきた時、この剣の力は私達を救ってくれた。
あれは母さんの力?
でも母さんはそんな力が使える術者では無かった.....ただの、普通の人間だったわ。
───────でも)
でも、あの剣の力を母さんは知っていた。
母さんの声があの力へ導いてくれた。
もしかしたら母さんは、エルザは特別な人であったのか?
普通の"人間"では無かったのだろうか。
それ以上に.......どうしてその力を普通の人間であるはずの自分も使いこなせているのか。
ッ。
得体の知れない力。
助けられてはいるが、その得体の知れ無さが不気味で怖い。
何にせよ、得体が知れないというのは怖いものだ。
そう、得体の知れないもの。
彼女にはこの剣の他にも同じ理由で怖いものがある。
それは―――自分の存在。
彼女自身のその存在。
(......っ)
得体の知れない自分の存在。
五年前、彼女に今残る記憶よりも前の自分。
エルザと出会う前の自分は何処の誰で誰と過ごして、何を感じていたのか。
.

