渡してしまえば、すべてが丸く納まる。
だったら渡してしまえば、それで済むこと。
ただ、それだけなのに。
(.....何なのよ)
シエラはどうしたらいいか分からず、その場に立ち尽くした。
「シエラっ!絶対にその指輪を渡しては駄目!
それはあなたが、シエラが生きている証なんだから......それが貴方から離れたら、貴方が貴方でなくなってしまう!」
唐突に聞こえていたエルザの声に、シエラの混乱の感情は断ち切られた。
(私の生きている....証?)
エルザのその言葉の意味はよく分からない。
だけれど。
だけれどシエラは心のどこかでこの指輪を渡してはいけないということは、なんとなくだが分かっている気がした。
この指輪を渡したら何だか自分が自分じゃなくなる気がした。
自分がなくなってしまうような気がした。
確証は無い。
でも本能的な感覚がそう告げた。
だけど今のこの状況を改めて見直してみる。
完全にこの中での弱者は、自分達であることに変わりはない。
やっぱり指輪を渡す以外に逃れる方法はないとも思った。
「.....でもっ!
ここでこの指輪を渡しちゃえば、おとなしく帰るって言ってるわ」
「そんなのは、全くの嘘よ!
渡したらもう用なし。そこで二人とも殺されるわ。
そういう奴だわ....この男は」
「ッ!」
シエラは目の前のロアルを見た。
エルザの言葉を聞き、バツが悪そうな顔をしてエルザの方を見ている。
シエラは反射的に二三歩、後退った。
もし、ここで指輪を渡さなかったら命はない。
だが、エルザの言うことが事実だとしたら渡すわけにもいかなかった。
「エルザ........お前は相変わらず余計なことばかりしてくれる」

