だったら私は、指輪を渡して母さんと生きて暮らすことを選ぶ。
それが自分にとって一番幸せなことなんだから。
「........いいだろう。
お前が水竜の指輪をこちらに渡せば、我々はおとなしく帰ろう」
ロアルは手を差出し、ゆっくりとこちらの方に歩み寄ってくる。
「さぁ、では指輪を渡してもらおうかな?」
促すロアル。
シエラは首から下がる指輪をはずし、自分の手のひらへと置いた。
(.....これでまた今まで通りに)
シエラは決心し指輪をしっかり握り締めて、ロアルの方へゆっくり歩み始めた。
ッ。
でも何故だろう。
一歩近付くごとに何だか不安な気持ちが増すのを感じる。心臓の鼓動も、次第に早まる。
「........」
シエラは指輪と共に、ついにロアルの目の前までやってきた。
ドクンッ....ドクンッ。
心臓の鼓動は早まるばかり。
「さぁ、早くこちらに渡すのだ」
促されるままに、シエラは指輪を握った手を差し出す。
―――。
そして、指輪を差し出すロアルの手に落とした。
いや、落とそうとした。
だが、シエラの思いとは反対に手が指輪を放そうとはしない。
まるで体が指輪と引き離されるのを拒んでいるかのように、指輪が彼女の手を求める。
(どうしてなの.....。
こんな指輪さっさと渡しちゃえばいいことなのに)
だが、いくらシエラがそう思っても指輪がロアルの手の中に落ちることはない。
どうして。
どうして、どうしてなのよ。
シエラは今、どうしてこんなことになっているのか分からなかった。

