mirage of story

 
 

 
 
 
ロアルが何もせずに帰る。
そうしてくれるというのなら、シエラは指輪を渡してもいいと思った。
それが今のこの状況で、最善のことだと思ったから。

この指輪は、シエラが記憶を失いその前から持っている唯一のもの。
だが、シエラにはただそれだけのものでそれ以上の価値は無かった。



別に渡しても、困るようなことなどはない。

だが、返ってきた返事はロアルからではなくエルザからのものだった。









「........駄目よ。その指輪を渡しちゃ」


「なっ!どうして!?

母さんだって分かるでしょう?
この男はこの指輪を欲しがってる。だったらここで渡しちゃえば何もかも済むわ」




そうだ。
ここで指輪を渡してしまえば、何もかもが終わる。


この悪い夢みたいな状況も、ロアルからの死の恐怖も。








「指輪を絶対アイツに渡しては駄目よっ!」



それでも、エルザは頑なに拒む。

ただ、渡しちゃいけない。
それ以上の理由は何も言わずに、ただまっすぐにシエラを見てそう言う。




ロアルの問い。
エルザの強い視線。
二つが交錯する中、悩む。






(......今のこの状況。
アイツは指輪を渡せと言って、母さんはそれを駄目だという)



シエラの指輪を握り締める手に力が入った。




(でもここで、これを渡さないと二人ともさっきの炎で殺されるわ。
.......だったら私は)





「...........この指輪をあんたに渡したら、おとなしくここから出ていく。

そう約束するならこの指輪はあんたに渡すわ。
それでいいでしょ?」


「.....シエラっ!」