mirage of story




 
 
 
 
 
 

震える彼女の肩を優しく抱いてやればよかった。
気の利いた言葉の一つや二つ掛けてやれば良かった。

だがそのどちらをするにも、この時の彼はまだ幼すぎた。









「ライル」




.........。
暫くの間、彼女は静かに泣いていた。

グズンと鼻を啜る音、もう暫く経ってから彼女は少し落ち着いた様子で彼の名を呼んだ。



もう声は震えてはいない。
だけれど泣いて疲れたのか少し枯れた声だった。



ッ。ライルは彼女に改めて視線を向ける。

見えるのは彼女の泣き顔。
そしてずっと閉じていた瞳が丁度開く所だった。






「........私ね、もう誰かが傷付く所なんて見たくない」



「うん」




「だから......だから私が変えたい。
この世界を、傷付く人が居ない世界へ変えたい。

でもねライル、そんな大きなこと私に出来るかどうかまだ分からないの」



ッ。
開かれたルシアスの瞳が、ライルを捉える。







「.............だから、だからもしも私が駄目になっちゃいそうな時はね助けて欲しいの。

一人が駄目でもね二人なら、きっとライルとなら出来ると思うから。
私と一緒に誰も傷付かなくていい世界を作ってくれる?」





.............。
彼女の綺麗な瞳はこの時世界の中でたった一つ、ライルだけを見ていた。





「――――当たり前だろう。
俺は、ずっとルシアスの味方だから」



彼女の瞳を独占する。
その贅沢な幸福感を一身に感じて、ライルは答えた。






「!......ありがとう」










幼き頃に交わしたそんな約束。
共に作ろうと誓った"誰も傷付かなくていい世界"への希望。



―――――。

皮肉なことだ。
その約束が今のライルの―――彼女を失い孤独になった今の彼の心を痛ませる。








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