「何言ってるの。
ここで二人とも逃げたら、すぐ捕まっちゃうのがオチだわ。
だから貴方は私がアイツの相手をしてる間に逃げるの。いいわね?」
エルザは軽く笑みを浮かべていたが、目は真剣だった。
「........貴方は、まだ死んじゃいけないの」
『死んじゃいけない』
それは、エルザの強い意志の籠もった言葉。
たった一言なのに、とてつもない重みを持つ言葉。
「.....でも私だけ逃げたら、母さんはどうするのよ」
「そんなこと考えなくていいから、早く逃げなさい」
エルザの言う通りにここで一人で逃げれば、エルザは確実にロアルによって殺されてしまう。
そう思った。
エルザもそのことが分かっているのだろう。
エルザはシエラの問い掛けには答えずにただまっすぐ、敵であるロアルの方を見据えて言った。
(私は.....私はこんなとこで、母さんを失いたくなんかない)
だからシエラは逃げるわけにはいかなかった。
エルザを残して一人逃れるだなんて考えは、毛頭なかった。
たとえエルザが何を言おうとも。
(でも、どうすれば)
シエラは二人共にロアルから逃げる良い方法がないかを、頭の中で模索する。
ボォッ―――。
だが、シエラのその考えは一瞬のうちに消えることとなった。
何かの気配に気付き、視線をロアルの方へ戻す。
するとそこでは、ロアルがこちらに向かって炎の魔術を放つ所だった。

