mirage of story

〜3〜








まだ鮮明に残っている。あの日の記憶。

あの時の兄貴の姿。
五年前のあの戦乱の時に、何もかもを失ってただただ泣いて途方に暮れて生きることを諦めかけていた俺に優しく手を差し伸べてくれた。
そんな兄貴の姿が。







――――。
まだ鮮明すぎる程に。
頭の中に残っているんだ。



泣きじゃくるまだ幼かった俺の頭に、兄貴は大きな手をポンッと乗せて
ニカッて笑って言った。



"泣いてちゃ何も始まんねぇぞ?
泣いてる間に楽しいことも嬉しいことも全部過ぎてっちまう。 

────そんなの、嫌だろ?"




皆、泣く俺の前を見て見ぬ振りしながら過ぎ去ってゆく。
そんな中で兄貴は俺にそう言った。



その言葉を聞いた俺は最初、兄貴のことを変な人だと思った。


自分にはもう楽しいことも嬉しいことも来ない。全部、全部無くなってしまった。

この時の俺は、絶望していた。
もう何もかもが色褪せて見えてもう全てが終わりに思えた。



だからこんな状況で楽しいことや嬉しいことを創造するだなんて。
変な人だな、と思った。 






 
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