(あ....まずい)
気付いた時には、もう遅かった。
シエラが草陰から飛び出した瞬間、見事に全員がこっちを振り返る。
そして皆、呆然とこちらを見る。
ロアルでさえもあまりに突然だったので、ただ呆然とシエラの方を見ている。
ッ。
そしてエルザを掴んでいた手も驚きからか少し緩んだ。
もちろんエルザも驚いてはいたが、驚きながらもロアルの手が緩んだチャンスを逃さなかった。
手が緩んだその瞬間、彼女は咄嗟の行動に出る。
ガシッ。
鈍い音と同時に、隙を突きロアルから逃れたエルザの見事な足蹴りが決まった。それもまぁ、見事。
ロアルの顔面のど真ん中に。
(―――凄い.....)
あまりの強烈な足蹴りにロアルは後ろに倒れ込む。
シエラもそして周りの者達も、予想だにしなかったその行動にあんぐりと口を開けた。
(.....母さんにあんな技があったなんて)
シエラはそう感動しながら、エルザの元に駆け寄る。
「母さん!」
エルザは再会したシエラと共に倒れこんだロアルを見下し睨んでやる。
あぁ、何だか凄く気分がいい。
そしてロアルを嘲るようにエルザはにっこり微笑み、一言。
「どうかしら?
私、そちらが思ってるよりずっと賢くてよ?」
......。
暫らく倒れたまま制止していたロアル。
そしてその数秒後、無言で起き上がった。
見れば、ロアルの足形のくっきり付いた顔は怒りと恥ずかしさで真っ赤。
真っ赤なその顔に、見事な靴跡が映える。
「あら....ちょっとやりすぎたかしら?」
明らかな怒りを見せるロアルを前に、ちょっと反省したようにそう言った。
(.....うわぁ、凄い怒ってるよ)
端から見てもそれは明らか。

